――ああ、王子さま。どうか私を助けて。

白馬にまたがった彼が行ってしまう……。待って、お願い待って。
必死で伸ばした手は、優しく包み込まれた。

「え?」

「大丈夫?」

「うわっ」
「おっと、駄目だよ、急に起きあがっちゃ」

目の前にいたのは王子さま、冬木和葵。
柚希の手を包んでいたのはどうやら彼だったらしい。

黒い瞳を縁取る長い睫毛、耳に少しかかる長さの髪は少しだけ毛先が遊んでいる。鼻筋の通った高い鼻に、艶めいた口元。

柔らかい微笑みを浮かべている綺麗な彼は、柚希の背中にフカフカの枕を重ねてベッドから離れると、椅子に腰を下ろした。

気を落ち着けながら、柚希は恐る恐る部屋を見渡した。

光沢のある織りのゴージャスなカーテンに、マホガニーのチェスト。ベッドも布団も背中にあてられた枕だって妙に素敵だ。そして部屋は広い。

病室だとしたら特別室? まさか。

どうしてこんなところで、腕に点滴の針を刺されているのかと、焦りながら考えて、ようやく思い出した。