ドキドキしながら通りの隅に立ち、彼と話をしていた相手が離れたところで、思い切って「あの」と、声をかけた。

「えっと?」

「さきほどはお買い上げくださいまして、あ、ありがとうございました」

「ああ、さっきのコーヒーカップの」

「はい」

「届けてくれたんだね。ありがとう」

「いえ、こ、これくらい」

なんとなく、じゃあと彼がそのまま行ってしまいそうな気がして、柚希は焦った。

これは一生に一度あるかないかのチャンス。
逃すわけにはいかない。

緊張で震えながら、勇気を振り絞った。

「君、大丈夫? どこか具合でも?」

「お、お願いです。私のパトロンになってくださいっ」

「へ? ――あ、あ。き、君? ちょ」

――言えた。言えたよぉ、マルちゃん。

バタッ

緊張が解けたと同時に、柚希は気を失った。