「パトロン? ですか」

桜井柚希は怪訝そうに聞き返した。

「そうよ。パトロン。
 世の中にはね、お金の使い道に困っている人がいるわけよ」

ここは吉祥寺にある雑貨店。
柚希を相手に熱く語っているのは、この店のオーナー華子さんだ。

雑貨店の一角は小さなギャラリーになっていて、そこにはマグカップや御飯茶碗などの柚希が作った陶器が並んでいる。

「いい作品を作ったところで、売れないと話にならないでしょう?」

今日から一週間。陶芸家である柚希は、この店で念願の個展を開く。

うれしさ三分の一、心細さ三分の一、残る三分の一は売れるかなぁという不安。緊張の面持ちで彼女の話に耳を傾けている。
真剣に聞いてはいるが、
華子さんの濃すぎる口紅や、重たそうな指輪や、何重にも重ねてつけているビーズのブレスレットについ気を取られてしまう。
――すごいなぁ。

「それでね。こう言っちゃなんだけど、若手陶芸家っていうお金に困っている人が多いわよね。 違う?」

柚希は、ハッとしたように大きく頷いた。