麗しの彼は、妻に恋をする

「一億よ」

――え?

「和葵さんはこの記事のことは、まだ知らないわ。それでね、私から提案があるの。私がその方から絵画を買い取る代わりに、あなたには彼と別れてほしいの」

「――別れる?」

彼女は白紙の離婚届を差し出した。

「だっておかしいじゃない? あなたは彼に何もしてあげられない。経済力もない。陶芸家としての才能もない。女性としての魅力もそれほどない。なーんにもない」

そこまで言って、彼女は柚希の服を繁々と見て「酷い格好ね」と笑った。

そしてまた話を続ける。

「どんな手を使って彼に近づいたのか知らないけれど、あきらめて。要するに、あなたには和葵さんは似合わないの。
 ここにサインをしてくれれば、すぐにでもこの記事は止めるわ。期限は今日。どうする? さあ」

「今日?」

「というか、今。ここですぐ、電話をして止めないと間に合わないの」

「――そんな……」

彼女の言ったことは、悔しいけれど当たっている。

――私には、なにもできないし、なにもない。
それは確かにそう。