麗しの彼は、妻に恋をする

冬木陶苑は陶器だけを扱っているわけではない。
銀座の本店やベリーヒルズ店では陶器だけだが、主に絵画を扱っている店舗もある。

彼女が差し出した紙には、冬木陶苑で買った油絵が鑑定の結果贋作だったと判明したと書いてあった。
柚希の知らない、フランス人のような画家の名前。絵のことは勉強を始めたばっかりなので、写真の絵を見てもよくわからない。

でも、贋作なんて、そんなことがあるはずはない。
あってはならない。

「嘘よ」
思わずそう口にしていた。

「何者かが、差し替えたのかもしれないわね。陶苑にあった時は、本物だったはずよ。でも、この記事が出たらおしまいよね。贋作を買った方は激怒していらっしゃるそうだもの」

混乱しながらも、ここに書かれていることがどういうことなのかは、薄っすらと見えた。
とにかく陶苑にとって大変なスキャンダルということだ。

「私の父がね、この出版社の社長なのよ。私はね、この記事を表に出したくない。冬木さんのためにも」

「どうすれば」

「私ならなんとかできる。この方、実は私の友人でもあるし。倍の値段でその絵を買い取れば今回のことは忘れてくれるって約束してくれたから」

「あの、倍というのは?」