心に嘘をつく理由も、もう忘れてしまった。

恋の駆け引きなんて高等なテクニックはもともと無理だ。
心を全開にしてそれで捨てられてしまっても、それはその時のこと。

開き直ったらとっても楽になった。

そんな心の変化に気づいたのか、『やっと聞けた』とうれしそうに笑って、ギュウっと強く抱きしめてくれた彼。

――なんというか。
これから何かが始まるような、そんな感じ?

「キャア」

思わず頬が上がってニヤけてしまう。

サラサラと手首のブレスレットが揺れる。
手を翳すと冬の眩しい光を浴びて、鎖がキラキラと輝いた。

「和葵さん……。大好き」

そっと呟いた時だった。


タイヤが砂利を踏む音が聞こえて、柚希は外を振り返った。

「誰?」

庭に出てみると見覚えのない高級車が見えた。

真っ赤な外国車。

高級車でここに来る人は夏目か和葵だけだし、彼らの車は白か黒だ。
芳生の車も高級車だが国産車である。

こんな風に派手な車で現れる人には心当たりもない。

ジッと見ていると、運転席から下りて来たのは女性だった。