「へえ、じゃないですよ。柚希さん、まさかその格好で行くわけじゃないですよね?」

「――えっと?」

ちなみに今日は東京都内での個展ということで、一番いい服を着てきた。
デニムのパンツは唯一粘土が付いていないパンツだし。
Tシャツも初めて袖を通す新品だ。三枚千円で買ったものだけど新品には違いない。

「ど、どこか問題でも?」

眉をひそめているマルちゃんに恐る恐る聞くと、彼女は驚いたように目を剥いた。

「どこもかしこもです!」

「そ、そんなに?」

マルちゃんは大きく頷く。

「ベリーヒルズを舐めてますね?
 あそこは病院もレジデンスも超がつく資産家しか入れないし、オフィスビルは超一流企業しか入っていない。テナントだって高級店ばっかりなんですよ?」

でも、格好で作品の価値が変わるわけじゃないし、などという言い訳は速攻で却下され、
お金がないと言ったら、冬木さんにもらった一万円があるじゃないかと言い切られた。