「ねぇねぇ夏目。あの男は油断ならないと思わない? この前うちのウメさんに菓子折り渡していたんだよ?」

ウメさんというのは初老の非常勤社員で、介護施設など独自の顧客ルートを持つなかなかのやり手な営業ウーマンである。

「さすがですね。目の付け所が鋭い」
「そういうことじゃないんだよ」

「はいはい。奥さまに言ってみたらいいんじゃないですか? 他の男とふたりで会ってはいけないって」

彼はそれには答えず、「やっぱり信用ならないな」とかブツブツと文句を言い続けた。

やれやれと呆れるものの、彼には心身ともに健康でいてもらわなければ困る。
密かに溜め息を落とし、夏目は上司のやきもちに付き合うことにした。

「ちゃんと気持ちを伝えているんですか? 奥さまに」

「会うたびに言ってるよ」

「へえ。それで奥さまも答えてくださるんですか?」

「それがね、聞いてよ。二ッと口角だけ上げてこう言うんだよ『私も、愛してるわ』」

彼は身振り手振りを添えて、愛する妻の声色を真似る。