でも、さわりたかったよ



独り言と区別がつかずに、え?と聞き返すあたしとタイムラグが生じる。

「だって、あなたといると」

誰?

「先輩いつも、笑ってたから」

目線が合う音がした。静電気が走ったみたいで思わず身構える。











思い出した。あの横断歩道の先の本屋に、あっちゃんと行った時。

同じファッション雑誌に手を伸ばして、あ、と思わず声が出て。

その女の子は驚いた猫みたいに飛び跳ねて、一歩後ずさりした。

あたしはちゃんとすぐに、どうぞ、と言った。

けれど、その子の瞳にはあたしじゃなくあっちゃんしか映ってなくて、顔を真っ赤にしたまま今にも泣きそうな顔をして走って去って行った。



「かわいい。顔真っ赤だ。1年生かな」

あたしはアキナが表紙のその雑誌を手に取って、「本日入荷」と書かれたプレートが傾いているのを直した。


「あの子だれ?」

「ん?知らね」

あっちゃんはまるで興味無さそうに言った。
野球の漫画の新刊を手にとって、裏表紙のあらすじを読みながら。

「でもあっちゃんのこと見てたよ。もしかして、あっちゃんのこと好きなんじゃない?」

いたずらっぽく笑って小突いても、気にも留めない様子で。

「なわけねーだろ」

くるっと踵を返してレジに向かう、あの細くて四角い背中。

「話したこともねーのに」

あたしは無性に手を繋ぎたくなって、飛びつくみたいに追ったんだ。