私は、母にねだって無理に入れてもらった駅前の大手の塾の自習室のドアを開ける。


購買ブースでノートを買い足そうと、財布の入ったショルダーバックを腕に引っ掛けた。

階段を降りていくと踊り場から線路が見え、ガラス越しにその下を見下ろす。


塾の裏で、バイト着にパーカーを羽織った先輩と制服姿の彼女が密会している、見慣れた光景。


フェンスを背にして二人並んで楽しそうに話しているその姿は、夢じゃないし嘘じゃない。
これが現実で、これが幼い私の世界の全てだった。




私はガラスに触れた。
手も届かなければ言葉も伝わらない、透明で分厚い境界線。

だから、ただ見ているだけだった。