「先輩」 ぽろりとこぼしたその言葉を拾うよりも先に、先輩が斜め後ろに現れていた。 先輩は私の横に来て、何も言わず優しく微笑んだ。 心が、ぎゅっと強くしぼられたぞうきんのようにまだわずかに残っていた絶望をしたたらせて、水たまりを作っている。 私は思わず先輩の胸に顔をうずめ、歯を食いしばった。 「大丈夫だよ」 掛けてほしい言葉を自分で発した。 自分の耳に一番近いのは他の誰でもない自分の口であって、つまりは自分の声が一番早く耳に届くことを私は知っていたから。