「来ないかと思った」

「別に…丁度暇になったし、せっかくのライブチケットが無駄になっちゃうしね」

くすくすと小さく笑うと、その場にしゃがみこんで今度は大きな声で笑った。空まで突き抜けて行きそうな笑い声だった。

「ぷ。くーッあっはっはっはっ、何だよお前その恰好。近くのコンビニに行くんじゃないんだからッ」

「な…急いで来たんだから仕方がないでしょう?」

私の恰好を見て、奏は大笑いをした。
家に居たから勿論化粧はしていない。ので、すっぴん。髪だってボサボサだったし
適当なジーンズとトレーナーに黒のダウンを羽織っただけ。

けれど、奏の前ではいつもこんな感じだったと思う。格好のつけない素のままの自分。
そして彼はあの頃ありのままの私を愛してくれた。

「入ろう、ライブ始まっちゃうよ」

「ちょっと!奏!」

ごくごく自然に私の手を握り、ライブ会場に吸い込まれていく。

彼が罪深い人であったのならば、自分はどうなのだろう。

来ない選択もあった。いや、当たり前に来てはいけなかった。子供じゃないんだから自分で決めれた事だ。

けれど私は自分で選択をして、この場所に居る。 ライブなんてただの口実だ。 私は会いたかったのだ。皮肉にも隣で無邪気な笑顔を向けるこの人に。

あなたではない、人に会いたかった――。それがどれだけ駿くんを傷つけ、悲しませる事かなんて頭では理解していた。でも気持ちはどうしても止められなかった。