「でも夕方から雨が降るってさっき天気予報で言ってたよ。ちゃんと傘を持っていくんだよ?」

「もぉー…駿くんお母さんみたいッ!」

私の言葉に、駿くんは眼を細めて優しい微笑みを落とす。

「でも…雨が降るかもしれないなら、買い物は止めておく。家でゆっくりしてようっかな…。雨嫌いだし、傘持ち歩きたくない」

「ん。大阪土産買ってくるよ。また着いたら連絡をするよ」

「わーい。楽しみ。ってお仕事で行くんだから、全然気にしないでね?」

駿くんを見送った後、ベランダの窓を開ける。

洗い立ての洗濯物の柔軟剤の匂いがふわりと香る。空は晴天だ。見上げた空は雲ひとつなくって雨が降るとは思えない。

しかし最近は天気も気まぐれだから、夜になったらどうなるかはまだ分からない。


ベランダの柵に手を掛けて空を仰ぐ。その場で大きく伸びをして、すぅっと息を吸う。

お財布の中にそっと忍ばせていたチケット。消そうと思っても頭から消えてはくれない。

奏は確かに私の勤めるショッピングモールに仕事で来ている。出勤すれば毎日のように会いに来て、他愛もない話をしたかと思えばこんなチケットを無理やり押し付けてくる。

けれど連絡先を訊いてきたり、電話番号を教えてくれたりはしない。いや、訊かれても教える気もないし、知りたい訳でもないのだが。