「ちょっと、私行かないってばッ…!」

「俺は行くけど?」

そう言って自分の手の中にあるチケットをひらひらと揺らす。
…だから、話が噛み合ってないんだってば…。

「笑真の手の中に落ちた物は、全部笑真の物。
もう俺の物じゃない。
行きたくないなら捨てるか誰かにあげるかすれば?」

だからそういうのを自分勝手だと言うのに。

それだけ言い残し、腕時計に目を向けた彼は「時間だ」と言ってその場を去って行ってしまった。


手の中に残されたのは、たった1枚のチケット。 どうしたらいいって言うのよ。
初めて話をした、ライブハウス。あれが全ての始まりの日だった――。
私の前に颯爽と現れて、あっという間に私の心をさらって行った17歳の冬の日。


いつしかあなたとの想い出は、あなたじゃない人との想い出に塗り替えられていった。――だったはずなのに、どうして今更現れて私の心をこうまでかき乱すの?

私はもう、あなたとは想い出を積み上げては行けなかったはずなのに。