「あぁ。会社の近くに出来た喫茶店でね。俺くらいの年齢の女性がひとりでやっているんだけど、雰囲気もすごく落ち着くんだ。」

「駿くんと同い年くらいの女の人?その人って綺麗?」

夕飯を終えて、駿くんが買って来た珈琲豆で珈琲を淹れた。

ひとりの時はインスタントで済ませてしまう事が多いんだけど、やっぱりゆっくりと珈琲メーカーで落とすと香りが違う。

ホッとするような芳醇な香りが鼻から突き抜けて、部屋いっぱいに広がって行く。

ソファーで肩を寄せ合い上目遣いで駿くんを見上げると、目を細めて頭を数回ぽんぽんっと叩いた。

「うん。すごく綺麗」

「そっか。むむッ…すごく綺麗かぁー…」

唇を尖らせて色々な想いを巡らせる。ひとりで喫茶店を経営している若き女オーナーか…。絶対に素敵な人に決まっている。

私も駿くんに釣り合うように大人の女性を目指しているんだけど、全然だし。実は香りが良いとか言っちゃってるけれど、珈琲の味も未だに区別がつかない。

「大丈夫。笑真はすっごく可愛いから」

落ち着いたトーンで自然にさらりと言ってくれる。

「可愛いって便利な言葉だと思う。私も綺麗で大人な女性になりたいのになぁー…」