そう言ってあの頃と変わらない笑みで、笑うんだ。僅かに視線をずらして奏と向き合う。どうしても真っ直ぐに彼の顔を見る事が出来なくって…。

ゆっくりと後ろに下がる。

「奏にだけは言われたくないよ…」

「確かに」

足元が震える。その場で立っている事さえぎりぎりだ。今すぐにこの場から立ち去りたいのに。
笑っているかと思えば、真剣な顔をして奏は立ち上がった。そしてその場で深く頭を下げる。

「7年前は、ごめん。あんな手紙1枚残して、笑真の前から姿を消して」

「今更だよ…。そんなの、過去の事だよ。今更目の前に現れて、そんな昔の話なんてしないでよ……」

「それでも俺…笑真に聞いて欲しい事があって…」

「私はもう何も聞きたくないッ!奏と話す事なんかない!」

待って。
その言葉が聴こえたけれど、カフェを飛び出してそのまま走り出してしまった。

あのままあの場所に居たら、立っていられなくなって泣きわめいていたかもしれない。あの日のように――。


外に出たら大雨。

頭から、足先まで大濡れ。 それでも今日が雨で良かった。 この大雨が、涙から私を守ってくれているようで。

どうして今更私の前に現れたの?