「じゃあ、私帰るから。傘は1階のサービスカウンターの近くに売ってるからね」

「待って、笑真」

その声に引き止められる。
振り返ったら、奏は昔と変わらない笑顔を向けた。丸く、大きな瞳を揺らしながら。

「変わったけれど、一瞬で分かった」

「え?」

「数日前、映画館で会ったよな。俺ら。
着ている服装も髪型もあの頃とは全然違うけれど、一瞬で分かった」

あの日の映画館。奏も気づいていたんだ。
私はこんなに変わってしまったのに。
目が合った気がしたのは、気のせいではなかった。

ぐらりと視界が揺れる。この間もこんな感覚を感じた。それは足元から吸い込まれていく様で、まるで過去に引き戻されるかのような――。

「一緒に居たの、兄貴だよな?」

けれど一瞬で現実に引き戻されるんだ。いつだって。

「なんて、結構同級生の噂で聞いてたんだけど。
笑真、結婚するんだってな。おめでとう――」