そう、私は知っている――。

彼の持つ雰囲気の全てが母親似だという事に。

そして彼の父親は、どちらかといえば目の大きい可愛らしい顔をしていて、物静かだけど笑い声が豪快な人だった。

そして彼の父親の笑い声と、奏の笑い声は被る。


それもそのはず、幼き頃駿くんの両親は離婚した。
その際に父に引き取られたのが駿くんで、母に引き取られたのが奏だったからだ。
駿くんと奏はれっきとした血を分けた兄弟なのだ。


あの豪快に笑う、どこまでも明るい笑い声。あれは絶対に奏だった。だって私は奏の笑い声だけは絶対に間違えない。

けれど、駿くんの前で奏の名前を出す事は許されない事だった。


今日の事は全部忘れよう。あなたではない小さな笑い声を聴いて、いつか自分の中で決めた事を思い出す。

奏の存在だけは、駿くんの前で出さない。
それは駿くんと付き合った時に自分と約束をした事だ。