私は元々駿くんとは小学校と中学校が同じだった。その頃には全く接点はなかったが、学校でも有名人のひとりで、笑顔が素敵な先輩といったイメージだった。
24歳の時に付き合いだして3年。私の中での駿くんのイメージは昔と何ひとつ変わらなかった。 想像通りの人。
誰にでも優しくて、温厚で、真面目で、どこまでも真っ直ぐ。欠点がない所が欠点。正にそんな言葉が似合う男性だった。
そして彼はいつだって正しく私を愛してくれる。―――だけど、左手の薬指。彼から貰った婚約指輪が天井の照明をめいっぱい浴びて、キラキラと光る。
珈琲カップをキッチンに持っていって、水に浸す。
リビングの電気を消すと、私は先ほど駿くんに抱かれた部屋とは反対の部屋の扉を開く。
この部屋は余り駿くんの匂いがしない。自分の匂いがいっぱいに広がるシングルのベッドに横たわると、途端に瞼が重くなって、安心感に包まれて睡魔が襲ってくる。
私は誰かと一緒ではゆっくりと眠る事すらままならない。それは家族でも親友であろうと プロポーズをしてくれた大好きな彼氏であろうとも変わらない。
誰かが側に居る事。誰かと肌が重なり合う事。誰かの息づかいが聴こえる事。その全てが不快だ。



