「高瀬駿くんと本当に結婚するの?」
「結婚って言ってもまだプロポーズされただけだから、式の日取りとかはまだ全然詳しく決めていないよ」
戸惑いを見せるこずを前ににこりと笑みを作る。
「ねぇ、高瀬駿くんって…奏の、安田奏のお兄さんだよね?」
安田 奏――。何て懐かしい名前の響きだろう。
「そう、だね。さって段ボール運んで品出しさっさと終わらせちゃおっか」
段ボールを手に持ち立ち上がると、やっぱりこずは浮かない顔をしたままだった。
いつも明るくって笑顔を絶やさなかったこず。特別仲が良かった訳じゃないけれど、廊下で会ったら立ち話をする程度の仲だったが、いつも私へ微笑みかけてくれた。そのこずの表情が曇っている。
「どうして…?」
肩を思いっきり掴まれて、両手に持っていた段ボールは音を立てて手のひらから落ちて行った。
’どうして…?’こずの悲し気な声が耳の奥ずっとこだまする。
「ご、ごめん。私ったら、大丈夫?笑真ちゃん…」
駆け寄って来たこずは、落ちた反動で中身の零れたシャツを拾いながら顔を上げた。
どうして?と言った悲し気な声と同じ位、目の前のこずは今にも泣きだしそうな顔をしていた。
彼女の瞳に映る私は、今一体どんな顔をしていたと言うのだろう。



