ぱちりと目が合った彼女の笑顔が一瞬強張るのが分かった。…言うつもりはなかった。隠し通せるものならば、ずっと隠しておきたかった。過去を知っている人ならばなおさら。
「それって…高瀬駿くん…?」
「あ、やっぱり知ってんのね、有名な人なんでしょー?
社長の息子なんて玉の輿じゃないッ。ほんっとに笑真ったら羨ましいわぁ」
「そう…ですね…」
こずの声のトーンが明らかに落ちるのが分かった。彼女が私に言いたい事が沢山あるのは分かっていた。
美鈴ちゃんの手前、それでも笑顔を取り繕ってその場を凌いでいた。
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「こっちのバックヤードの方に新しい商品が搬入されたら置かれているから」
お昼休みの話が嘘のように私は平静を保っていた。その間こずは仕事のメモを取りながらも、浮かない顔していた。
「検品の仕方教えるね」
「うん。あのさ、笑真ちゃん」
「うん?」
何かを言いずらそうにこずが視線を落とした。彼女の言いたい事ならば何となく見当がついたが…敢えて自分の口からは何も言わないようにした。
口に出したら、それが現実だと突き付けられるのはとっくに知っていた。
自分の中で過去にしようとしていた想いが、ぼろぼろと零れ落ちて行きそうで怖かった。



