【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました


ぱちりと目が合った彼女の笑顔が一瞬強張るのが分かった。…言うつもりはなかった。隠し通せるものならば、ずっと隠しておきたかった。過去を知っている人ならばなおさら。

「それって…高瀬駿くん…?」

「あ、やっぱり知ってんのね、有名な人なんでしょー?
社長の息子なんて玉の輿じゃないッ。ほんっとに笑真ったら羨ましいわぁ」

「そう…ですね…」

こずの声のトーンが明らかに落ちるのが分かった。彼女が私に言いたい事が沢山あるのは分かっていた。

美鈴ちゃんの手前、それでも笑顔を取り繕ってその場を凌いでいた。


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「こっちのバックヤードの方に新しい商品が搬入されたら置かれているから」

お昼休みの話が嘘のように私は平静を保っていた。その間こずは仕事のメモを取りながらも、浮かない顔していた。
「検品の仕方教えるね」

「うん。あのさ、笑真ちゃん」

「うん?」

何かを言いずらそうにこずが視線を落とした。彼女の言いたい事ならば何となく見当がついたが…敢えて自分の口からは何も言わないようにした。

口に出したら、それが現実だと突き付けられるのはとっくに知っていた。

自分の中で過去にしようとしていた想いが、ぼろぼろと零れ落ちて行きそうで怖かった。