私、幸せだ。とっても幸せ。こんな幸せはきっとない。これは正しい幸せの在り方。

ぎゅっと抱きしめたまま、隣からすぅすぅと規則的な寝息が聴こえてきた。さっきまで居心地の良い微睡みの中に居た、と思った筈なのに一気に現実に引き戻されるように頭も目も冴えわたってしまった。

彼を起こさないようにゆっくりと自分を抱きしめる腕を振りほどき、胸の中すり抜けてベッドから立ち上がる。

窓からただただ微動だにせずに輝き続ける月を一瞬見つめ、再びカーテンを閉じると物静かな闇が私を包み込んだ。途端に虚しい想いが胸いっぱいに広がって行く。

床に散らばった衣類と下着を手に取ると、その部屋を静かに後にした。




築3年の高層マンションはどこを歩いてもまだ新築の木の香りがした。

まだまだ生活感のないリビングの木造で出来たダイニングテーブルに腰をおろし、インスタント珈琲を口へ運ぶ。

テーブルの上にはスノードーム。雪だるまとサンタの置物が入っているスノードームを少し揺らすと、水の中グリッターがキラキラと様々な色が混じり合って舞い散るように揺れた。

これは先日のクリスマスに出かけた旅行先で、可愛いと言ったら彼が買ってくれた物だ。

こうやってふたりの思い出の物がひとつひとつ増えていくのだろう。 それが誰かと人生を共にするという事。