「じゃあ、知り合い?」

「うん。佐々木梢ちゃんって言うんだけど、旧姓は宇沢。
そんなに仲が良かった訳じゃないけれど、会ったら話する程度の感じの友達。」

「宇沢?んー…ちょっと分かんないなぁー…」

「高校は私と同じだから、駿くんは分からないかもね。
生徒数の多い学校だし」

「そっか。でも懐かしい友達と一緒に働けて良かったな」

顔を上げた駿くんは完璧な笑顔。何も間違いのない。
綺麗に解された鮭の切り身が、彼の育ちの良さを窺わせる。

スーツに着替え、薄めのコートを羽織り玄関まで行く彼の後ろをついていく。
ピカピカに磨かれた黒の皮の靴に足を通すと、くるりとこちらへ振り返った。 そんな彼に、鞄を渡す。

「そういえば今日は取引先の人と飲みに行くんだ」

「じゃあ、夕ご飯はいらない?」

「そうだね。でもそんなに遅くならないように切り上げて来るよ」

「そっか。分かった。じゃあ私も適当に夕飯済ませておくよ」

「ちゃんと野菜も食べなきゃだめだぞ?」

「もぉ、お母さんみたいな事言って。いつまでも私を子供扱いするんだから」

少しだけ拗ねて頬を膨らませると、駿くんは柔らかい笑顔を浮かべて頭を撫でた。

その微笑みに思わずとどきりとする。あなたの、正しい優しさが好き。私を子供扱いして、優しい微笑みを浮かべる所も好き。優しい顔が眼を細めて笑うともっと優しくなる所は1番好き。