「笑真ありがとうね。」
「いっつも感謝してる」
「本当にこんな事故を起こすなんて、俺抜けてるなー」

入院中の会話は付き合っていた頃にしていた会話と何ら変わりはない。

結婚出来ないと言った事も、家を出て行った事も、奏の事も駿くんは一切口にしなかった。

だから私もそれに合わせて出来るだけ彼に優しく出来るように接した。別れの話なんてなかった事にして。



いつの間にか桜は散っていて、春を通り越していく。
青々とした木々が街並みを彩って行った5月の終わり駿くんは病院を退院した。

まだ松葉づえをついていたが、その退院には彼の父親も来てくれて家まで車で送り届けてくれた。

「笑真さん、駿をよろしくね」と言われたけれど何て答えていいか分からずに曖昧に微笑った。 結局退院の日まで駿くんのお母さんが病院に来る事は一度もなかった。

「大丈夫?駿くん」

「ん。ありがとうな、笑真。
今日もわざわざ仕事の休み取ってくれたんだろう?」