14 最後の優しさ。




駿くんが事故を起こしてから2週間。

左足を骨折してしまったが、手術を受けた翌日からリハビリが開始されて、まだ松葉杖をついたままだったが退院が出来る事が決まった。

とはいえまだ何か月も病院に通院はしなくてはいけなかったが、命が助かっただけでも本当に良かった。

毎日のように病院に面接に来て、必要な物を用意してあげた。


その度に駿くんは弱々しく私に「ありがとう」と言った。それが逆に申し訳なかった。

奏にも『今は兄貴の側にいてあげて』と念を押されて言われていた。彼からの連絡といえば、駿くんの体調の事を伺うばかりだった。

そんな状況で奏の家に帰るわけにも行かずに、駿くんが俺が居ない間はマンションを使ってくれていい。との事でその言葉に甘えた。


子供が突然飛び出してきた、という事だったけれど

事故に遭うまで駿くんを追いつめたのは、私かもしれない。そう考えれば考える程、駿くんのして欲しい事はしてあげたいと思った。

’側に居てくれ’うわ言のように言ったあの言葉を、突き放す事も出来なかった。

そうやって時間が流れて行った入院生活は、とても穏やかだった。
首を絞め、私に殺意を抱いていたあの時の駿くんとは思えなかった。