「ん…。」

ベッドに眠っていた駿くんのうわ言が聴こえ、慌ててベッドの側に行くと
うっすらと目を見開いた彼が、小さく何かを呟いている。耳を近づけて、その言葉を聴きとる。

「どうしたの?駿くん…分かる?」

「笑真…」

私の名前を呼ぶ小さな声。
まだ上手に動かせない指先は、何かを探していた。

そこに手を添えると優しく握りしめた。 それはこの3年間ずっと私を守り続けた温もりと一緒だ。

目の縁が熱くなっていくのを感じる。

「いるよ…。ここにいる…。」

「笑真…行かないで。ここに居て…。俺の側に居てくれ…
居なくなられたら…俺は…」

うわ言のように呟くその言葉に、涙は止まらない。
奏の顔も見ずに、その手を握り締めた。

「大丈夫だよ…。大丈夫だから」

少し離れた場所から、奏は私達を見守っていた。 そして静かに病室を出ていく。
私の手の中で、駿くんの安らかな寝息が響いていくのが分かった。

『今は兄貴の側にいてあげて』

病室から出て行った奏からたった一言メッセージが届いた。
奏の顔を見る事が出来なかった。

こんな弱々しく側に居てくれと言った駿くんも初めてだった。その言葉を前に、動き出す事も出来ずに居た自分。

どうしても3年間私を包み続けてくれたこの人の、あなたの手を離す事が出来なかった。