奏の家に戻ってきた時、私はずぶ濡れだった。

確かに家から出る時奏は傘を持たせてくれた。けれどその透明のビニール傘は駿くんのマンションから出てくる時に忘れてしまった。

だから傘を持っていくのは嫌なんだ。

雨に降られた体をそのまんま奏へと預けた。
冷えた体のせいか、いつもより奏の体温が温かく感じる。

「笑真…?」

…怖かった。あんな駿くんを見るのは初めてだったから。

それがたとえ私にだけに向けられた敵意でなかったにしろ、優しかったあの人をあそこまで怒らせたのは私自身に違いない。

本当に殺されるかと思った。半ば無意識だった駿くんは、本気で私の首を絞めていた。我を忘れたような怖い顔をして…。

突如、奏が私の肩を掴みその首筋に注視する。
眉間に皺を寄せて苦しそうな顔をした。途端に両手でその痕を隠すように目を伏せた。

「これ…!」

「何でもないの!」

「何でもない事あるか!すっげぇ真っ赤になってるじゃん!
それ指の痕だよね?!」