「ご…めんね…」

すっと首を絞めていた力が抜けて、呼吸が戻って行くのを感じた。
それと同時に駿くんが私の体から離れて行って、段々と顔が青ざめて行くのが分かる。
自分の両手を見つめて、震えながら目を見開いていた。

ゆっくりと体を起こして、駿くんの方へ手を伸ばそうとすると彼はビクッと肩を揺らして数歩後退りをした。

その額には大粒の汗が滲んでいて、頬をゆっくりと涙が伝っていた。

「俺は…何てことを…」

誰にでもない、自分に言い聞かせているような言葉だった。

自分の腕を何度も床に叩きつけて、彼の口から嗚咽に似た声が漏れる。子供のように顔を伏せてその場で、強い感情をぶつけ続けた。

そんな風に感情を荒げる姿を見るのは、初めてだった。


もしかしたら、この人も私には見せていない本当の姿があったのかもしれない。
私が彼に見せれなかったように、かみ殺してきた心があったのかもしれない。

どうして私達は、付き合っている時に互いの本当の感情を見せ合わなかったのだろう。ただただその場に座り込んで、何の言葉も掛けてあげる事が出来ずに声を殺して泣いていた。

ザーザーザー

さっきまで降りそうで降らなかった雨が途端に降り始める。
地面を強く叩きつける雨が、やがて窓を打ち始めて横殴りの強い雨になっていく。

ずっと彼を強い人だと思っていた。だけど本当の意味で強い人なんてこの世界にいなかったのかもしれない。

いつも穏やかに微笑むあなたの中にあった、激しい激情。
雨の中に隠し続けたその弱さに、ずっと気づけない私で本当にごめんね。