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奏の家にあったビニール傘を借りて、午後から私はひとりその家を後にした。
空模様は相変わらずどんよりとしたままだったが、傘を手にした時に限って降りそうで降らない雨に苛立ちを覚える。
…だから、傘なんて常備したくないの。邪魔になるだけだし、こういう時に限って雨は降らないし。
ゆっくりと駿くんと暮らしていたマンションへ帰る。私が居なくなって少しは散らかっているんじゃないか?その想いは良い意味で裏切られた。
…散らかってるどころか、きちんと整理整頓されている。
どこまでもしっかりしている人だと思う。
ゴミのひとつも落ちていないフローリングの床。キッチンには朝使ってたであろう食器が綺麗に洗われて立てかけられていた。
根っからきちんとしている人なのだと思う。
ソファーに腰を降ろしクッションを抱えると、駿くんの匂いが懐かしく感じる。少しの間離れただけで、こんなにも懐かしく感じるものなんだ。
ボーっとしながらリビングの大きな窓から空を見つめる。
降りそうで降らない雨が空を灰色に染め上げる。
…今日駿くんは何時に帰って来るのだろうか。連絡の1本でも入れるべきだよね。
そう思い携帯を開いて、話があるので家にいます。とだけメッセージを入れておいた。



