「ごめんな。笑真を苦しめるばかりになって。
あんな未練たらしい手紙残していかなきゃ良かった。
そうじゃなかったら笑真きっと俺の事なんて待っててくれなかったよな」
「あんな手紙?」
不思議そうに顔を上げて奏を見つめると、向き合う奏はもっと不思議そうに瞳を揺らす。
「俺、7年前兄貴に頼んで笑真と一緒に暮らしてる家に手紙を置いてきて欲しいって言ったんだけど」
「あのいい加減な手紙でしょう?」
「お前さー…人が一晩悩んで書いた手紙をいい加減な手紙って、そりゃあ酷いんじゃない?」
『もう笑真とは付き合えない。
このマンションは3か月先の家賃は払ってあります。
この3年間は本当に楽しかった。俺、笑真と会えてよかった。
じゃあ元気でな。』
あの手紙には淡泊な文章のみが1枚の紙に書かれていただけだった。
「え?」
「ん?」
互いに顔を見つめ合い、不思議な顔をする。
何だか嫌な予感がした。 奏から目を逸らして笑顔を取り繕う。
「あぁ…うん。手紙ね。手紙…」
駿くんに託したという、奏の手紙。
あの文章の中からは未練といった類の想いは感じ取れなかった。どこか淡泊でさっぱりとしていた。
だからこそそんな手紙一枚で私との全てを終わらせた奏にはショックでしかなかった。
しかし奏との会話で変な違和感が自分の中で生まれた。



