奏の指先が私の長い髪を弄ぶようにかき上げる。

それが余りにも気持ちよくって、またうとうとと油断すると意識を手放してしまいそうだった。

「それにしてもすげー家だね。」

「そう?結構お気に入りなんだけど?」

昨日の夜、奏の住んでる家まで連れて来てくれた。
生活感なんてものは皆無のこの家は、テレビすらない。

古めかしいショットバーの2階。コンクリートに打ち付けられた寂しく冷たい空間。 そこにはベッドと生活に必要最低限な物しかなかった。

お洒落なようにも見えるが、人が住むような家には見えなかった。

「下のバーを経営してる人に借りてるんだ。元々は荷物置き場だったらしいけど」

「こんな家にしか住めないって…やっぱりITって給料厳しいの?」

真面目な顔をして聞くと、奏は声を荒げて笑い出した。

「あっはっはっ、また大真面目な顔をして可笑しな事言うなぁ。
俺は日本に来る前から会社の創立のメンバーとして携わってきたから、その辺のサラリーマンよりは給料もらってると思うよ。
最初はここもマンションが決まるまでの仮ぐらしだったんだけど、何か気に入っちゃってそのまんま住み着いてる」

「へぇ……何とも奏らしい話だね。
てか今何時?!」