12 あなたの激情。




誰かと一緒に居てこんなに安らかな睡眠を得るのはいつぶりだろう。

サーっと静かな雨音が聴こえる。この雨で、桜は散ってしまうかもしれない。けれど目を閉じてその音をずっと聴いていたかった。それはきっと、罪の音。

人を欺く事は、人生で初めてだったような気がする。

月の光さえ映さない暗い夜の中で、時計の針の動く音と雨の静かな音が交互に聴こえる。


カチカチカチカチ――
サーサーサーサー――


私を抱きしめる冷たい体温。抱き方も、キスの仕方も、触れ方も、あの頃と何一つ変わらない。

この人の胸の中だけで安眠を得る事が出来る。抱きしめ合うと溶け合ってどこまでも一つになっていく感覚に陥ってしまう。

遥か昔私はあなたで、あなたは私だったような…誰とも分かち合えない物を、あなたとだけは分け合えるの。

7年の時を経ても、この腕の中は変わらない。

「んうー…」

ビクッと体を動かして、無意識で私を抱きしめる。

目鼻立ち。肌の質感。暗闇の中でそっと覗き見る。スースーと安らかな寝息を立てる。男の人にしては静かに眠るタイプだと思う。

その腕の中でゆっくりと目を閉じて、意識を手放した。