「笑真…本当にそれでいいのか?」

奏の言葉にゆっくりと頷く。

「本当の私を知ったら、駿くんは私とは居たくないと思うよ。
奏は知ってると思うけど、私って本当は全然良い子じゃないの。
だらしないし、がさつだし…人の悪口や愚痴だってたまには言いたくなっちゃうし。
でも駿くんはそんな私が嫌いだから、ずっと無理をしてた。無理をしてた関係なんて続く訳ないのにね」

奏と付き合っていた頃の自分を捨ててしまいたかった。

駿くんの思う通りの人間になれれば、救われると思っていた。けれどそれどころが日に日に苦しくなっていって、自分らしさがなくなっていって、いつか自分というものが全部無くなってしまうんじゃないかって思った。

それはそれで幸せだったかもしれない。自分の感情を押し殺して、完璧に誰かの物になる。それ程の安心感はなかったかもしれない。

けれど、久しぶりにあなたと再会をして、昔の自分を思い出していくほどに駿くんと一緒に居るのが辛くなった。

「本当は、ずっと忘れられなかったのは私なの。
奏ごめんね。あの時あなたの抱えている寂しさや苦しさを全部分け合えない頼りない私で…本当にごめんね」

夕焼けが沈んで行って、闇が空を覆っていく。
その様を見つめ、ぽろりと涙が零れ落ちた。