あなたには、感謝している。愛していると何度も言い聞かせてきた。私を幸せにしてくれる、あなたと一緒に居れば幸せになれると信じて疑わなかった。

そこに流れる時間はどこまでも穏やかだ。――私が彼に従って、良い子で大人しくしている限り。本音を吐き出してしまえば、きっと私はあなたとは一緒にいられない。

「駿くん?」

「どうした?眠れないの?俺の部屋で一緒に寝ようか?」

それは優しさだったのか?それとも見えない鎖だったのか。私にももう分からない。

ただただその優しさを前に、首を横に何度も振った。
何も分からなかったけれど、これだけは分かる。

あなたと一緒では、私は安らかな眠りさえ手に入れられない。


いつか破綻する事どこかで気づいていた。気づかない振りをしてここまで来てしまった
私をどうか許さなくっていい。

「何か不安があるのならば俺に全部言ってくれ。そうじゃなきゃ一緒に居る意味がない」

穏やかな顔をして私の涙をすくう彼を前に、最低な事を言ってしまった。

「駿くん…。
私、結婚の事もう一度考えさせて欲しい…。
ううん、違う。私きっと…もう駿くんとは一緒に居られない」

その優しい笑顔を曇らせたのは、誰でもない自分自身だった。
そして今日、私はあなたと初めてちゃんと向き合った気がした。