闇の中で静かな足音が響いて、人の気配がした。慌ててクローゼットの中に箱ごと思い出の全てをしまい込んだ。

ゆっくりと扉が開く。 その先に立っていたのは、駿くんだった。


薄暗い明かりに照らされた先の駿くんの、端正な顔が歪んでいる。

ぺたりと床に座り込む私へ視線を合わせるようにしゃがみこんだ。そして頬を撫でる。それは自分の中に染み込んだはずの彼の体温だった。

なのに、どうして、こんな違和感ばかり。

「笑真、どうして泣いているの?」

そう言われるまで、自分が泣いていた事にさえ気が付かなかった。

彼の指が、私の涙をすくう。 その表情は、なんて切ないのだろう。それでもあなたは私にいつだって凛とした背中を見せて立っていた。


駿くんの前で、あの写真のような笑顔を私は見せてきた?あんなに深く人を愛する日々を送れてきただろうか?

あれほど誰かを自分のように大切に想い、失えば自分を失ったような気持ちになる事はあるのだろうか。

今もしも駿くんが私の前から姿を消そうと、あの時のような喪失感にはならないと何故か感じた。