あの頃、どんな事情があったにせよ、奏と一緒に居る事以外私の幸せなんかこの世界になかったのに。

奏がいないのであるのならば、それは誰もいないのと同じだったのに。



抱きしめた腕を、ずっと離したくなかった。

それが過去の気持ちなのか今現在の気持ちなのか、それは自分では分からない。

けれど震える奏の体を抱きしめていると、まるで自分を抱きしめているような気持ちになって。
あの頃へ引き戻されていくよう――。


7年の時は過ぎた。思い出として笑い話にするには充分な時間が過ぎ去った。それでも私の胸を燻ぶり続けた気持ち。

私も奏も、泣いている。同じ顔をして泣いている。いつまでも思い出になんか出来なくって、傷跡を無理やり埋めようとしてもそれは膿んでいくだけで

顔も声もいつしか少しずつ忘れて行ってしまった。けれど、出会ってしまったらこの胸に想いは溢れて止まらない。


忘れようとしていた。
けれどずっと忘れられなかった。
心の中のどこかに。


そんな罪な愛情を月だけが見下ろしていた。

どうかこの罪を隠して欲しい。 忘れられなかったこの愛を、どうか許して欲しい。