あの日の何度も一緒に越えて来た夜を思い出したら、私は自然と奏の体を抱きしめていた。
私よりもずっと冷たいその体を――

「奏のせいじゃない…」

「でも俺は…あの日を何度も後悔した。この7年間、何度も何度も…。
笑真を置いていってしまった事。きっと笑真が俺の事情を知ったらどんな事をしても側に居てくれるって俺は知っていたから。
そんなの、笑真の人生を壊してしまう事になりかねないって。それが怖かった。
そう考えたら笑真と一緒にいるのも怖くなった…」

「奏…。」

「俺、あの時は死ぬ事しか考えていなかった。自分を否定して、生きている意味さえ見失っていた。
お前は優しいからそんな俺を見たら、あの時きっと一緒に死のうって言ってくれたと思う。」

言葉にしなくても分かっていた。

魂の伴侶は、自分の半分。どちらかが息絶えてしまったら、その命の意味さえ見いだせなくなる。

「だから、兄貴に笑真を任せた」

「え?」

「俺、兄貴の気持ちには何となく気づいていたよ。
きっとそんな兄貴ならば笑真を幸せにしてくれると思った。だからあの日、笑真の事を頼んだのは俺だ。
だから今更俺が戻って来たとしても、」

「どうして…私の幸せを奏が決めるの?」