「自分の出生の秘密を知ってから母さんを問い詰めた事もあったんだ。そうしたらあの人なんて言ったと思う?
そんな事があった気もするけど忘れた、だって。本当に最低な女だと思うよ。けど、あの人はそんな人だ。どうしようもない。
離婚した後も男をころころと変えて、今だって知らん男と暮らしている。
俺はそんないい加減な母親と、どこの誰かも分からないその辺で野垂れ死んでるかもしれない男との子なんだって
そう考えたらどうやったって自分の存在はやり切れない」

今にも崩れ落ちて行きそうな奏の体を必死で支える。
すると、私の手の甲にぽつぽつと水たまりを作る。

空を見上げても雨は降っていない。月がただ静かに半月の姿のままこちらを見下ろしているだけ。

この手の中に降り注ぐのは、彼の涙だった。

その弱さをどうしようもなく抱きしめたくなる夜があった。その寂しさを分け合って半分に出来たらと感じた夜も。

失くした物を埋め合うように抱き合って眠る夜を、私達人間は完全ではないから、誰かと抱き合う事が出来るのだと。