その長い時間を私は死んだように生きて来た。自分の片割れを失ったような喪失感をいつも抱えながら息をしてきた。

そんな時間の中で、少しずつ私に歩み寄ってくれたのは誰でもない、駿くんだった。ちょっとずつ、けれど確実に私の凍り付いた心を溶かしてくれて、失くした隙間を埋めてくれた。

奏と一緒に居ると、あの優しい笑顔が歪む。

無理やり奏の腕を振り払い、向き直ると
雨に濡れた奏の視線はやっぱり虚ろで、頬には雨粒とは違った雫が落ちているのに気が付いた。
…それは私とお揃いの涙だった。

私達はその昔、互いを映し出す鏡のような存在だった。

「ごめん…本当にごめん…」

「私…もう奏には会えない…お願い、会いに来ないで。…もう私の前に姿を見せないで…」

途切れ途切れ発する言葉を前に、奏は私を見ずにどこか遠くを見つめていた。

スニーカーが雨で濡れる。走る度に水しぶきを浴びて、振り止むことのない雨の中傘も持たずにただただ走り続けた。

あの瞳から逃れるように――。

私は、あの日から傘を持っていない。絶え間なく頭の先から、足の先まで強い雨が打つ。

誰か、傘を差して。
私は傘を持っていないの。全て捨ててきたから、もう何もない。