その瞳には、きっと何も映っていない。私を不安にさせる虚ろな瞳。それはこの空の黒のように、あなたの心まで塗りつぶされていく様な、どこまでも寂しい孤独だ。

コンクリートを真っ黒に染め上げていく、止むことのない雨は耳に寂しい雨のメロディーを刻み込んでく。

黒目がちな大きな瞳。私と同じ瞳。重なり合うとどこまでも溶け合ってしまうような気がして、怖くて目を逸らした。

「じゃあ」頭に被せられたジャケットを奏に押し付けると、逃げるように彼へと背を向けた。

走り出そうとした、その時だった――。

ぱさりと地面の水たまりにジャケットが音もなく落ちて行って、後ろから私の体をすっぽりと包み込むように抱きしめる。

さっきよりもっと近く懐かしい香りが鼻を揺れて行って、ゆっくりと目を瞑る。背中越しに伝わる奏の鼓動と雨の音が混ざり合っていく。

「奏、ジャケットが汚れちゃう…」
「ごめん…」

消え入りそうに小さく呟く謝罪の言葉と共に抱きしめた腕の力がもっと強くなる。

何が、ごめんなの?
目の縁がじんわりと熱くなっていくのを感じた。

激しい音を立てながら、ふたりを包む雨の雫。 謝罪なんて今更だ。もう何も聞きたくない。何を聞いた所で過ぎ去った時間はもう戻らない。