自分の弟とはいえ、元カレで連絡を取っているのも報告をしていない奏と、呑気にライブに行ったり居酒屋でお酒を飲んでいるなんて…。駿くんが知ったらどんな顔をするのだろう。
今まで彼が声を荒げて怒ったりしたのは見た事がないし、喧嘩らしい喧嘩もひとつもしてこなかった私達。けれど…奏と一緒に居るのがバレれば、そんな駿くんも黙っちゃいないだろう。
駿くんが傷つくと分かっていて、どうして私は自分の気持ちを止めれなかったのだろう。
『ごめんね。ついついうとうとしててソファーで寝てしまいました…!
今からお風呂に行ってきます。』
嘘をついた事にちくりと胸が痛む。
ラインは直ぐに既読がついて、返信は直ぐに返ってくる。
『ソファーで寝ていたら風邪をひいてしまうよ。きっと疲れているだろうから、ゆっくりお風呂に浸かってちゃんとベッドで休むんだよ?
俺もさっき仕事から帰って来て、これからホテルで夕飯。
明日帰るからお土産楽しみにしてて』
ちくっちくっと針が刺すような痛み。ずっと消えずに残っている。
目の前の奏はこちらを見ずにそっぽを向いて、口から煙を吐き出す。どこか遠くを見ているようで、何も映していない空っぽの瞳に
あの頃、いつ気づいたのだろうか。皆と笑っていても、意識は違う所へ向いていて、ふっとどこかへ消えて行ってしまいそうな儚さがあった。
付き合い始めてもどこか不安だったのは、奏の笑っている瞳の奥にいつも悲しみが共存していると知った時から――。



