「突然誘ってごめんな。困るとは思ったんだけど、一緒に見て共感してくれるのは笑真かなって思って」
その言葉は狡い。
きっと奏は分かっていた筈だ。私がいくら行かないと言っても、結局来てしまっていた事は。
私の性格を全て見抜いて、その誘いを断れないの位知らない訳ない。
「別に…ライブが見たかっただけだし、私が来なかったらチケットが1枚無駄になるだけだし…」
「兄貴は大丈夫だった?」
「駿くんは今大阪に出張に行っている」
そういえば、私駿くんから着た連絡を返していない。
既読にもせずに、結局無視をしている形になってしまっている。
慌てて携帯を取り出すと、1件の着信が入っていた。どきりとして、顔を上げると奏は頬杖をついて2本目の煙草に火をつける。
「どうぞ、ゆっくり連絡を返して。」
とはいえ、この状況では電話は出来ない。 ガヤガヤとしている店内では居酒屋にいるのがもろバレだし
外に出て行ったとしても、騒がしい街の音を隠せるとは思えないし、こんな時間に何も告げずに家に居ないってバレてしまえば、駿くんはきっと心配する。
そもそもこの状況がありえないのだが…。



