「それにしても本当にライブは良かったな。
有名なプロデューサーがついてるのもあるんだろうけど、独特の世界観を作り出す歌手だよな、彼女は。
歌声は強いのにどこか脆そうなイメージがある。握りしめたら壊れてしまいそうな儚さがあって、思わず共感してしまう」

奏の言わんとする事は理解出来た。

人は共感する生き物だ。そして誰の心の中にも弱さがある。

今日見た芹沢花音のライブにもそれを感じた。強いのに、弱い。実は弱い。実は儚いっていうギャップに人は弱い。その人物が強く立とうとしていればいる程なおさらだ。

そして、私の中での奏もそんな人だった。

付き合い始めて、好きだなと思ってから、一緒にいて遠くから見ていた印象をがらりと変えてしまった人。

この人の中には、今も昔もどこか陰がある。

「奏は意外にダークな物が好きだもんね。音楽も映画や小説だって」

「俺は案外根が暗い人間だからね。」

「現実を見ると言うよりかはふわふわとしたファンタジーな物が好きだったし
でも悲しいばかりじゃなくって、夢や希望っていう救いのある話が好きだったね」

その言葉に、奏はにこりと笑って煙草の火を灰皿に押し付ける。