大衆居酒屋自体が久しぶりだったか。

駿くんは余りお酒を飲まない。一緒に食事に行ったとしてもお洒落なダイニングバーでワインをちょっぴり飲んだりする程度だった。

だからいつの間にか社内の飲み会位でしかこういった居酒屋を利用する事はなくなった。

奏と付き合ってた大学生の頃は、こういった安い居酒屋でふたりで飲んだり友達同士で来たりしていたのに。私も特別すっごくお酒が好きだった訳じゃないけれど、皆でワイワイ騒ぐ飲みの場は好きだった。

「相変わらず親父みたいな食い物好きなんだよなー…」

「うるさいなぁ。あ、軟骨の唐揚げも頼もうっと。こういう居酒屋久しぶりに来たよ」

「そりゃあ、兄貴はあんまりこういう所来ないだろうね」

右手に煙草を持ってそれを燻らせる。銘柄は緑のマルボロ。ボックスじゃなくって、ソフト派。

ばっちりと覚えてしまっている。

そして変わっていない事が少しだけ嬉しかった。 私も昔、この煙草を無理して吸っていた。奏の真似をして、今にしてみれば馬鹿馬鹿しいが。

「…奏は相変わらずお酒を飲むとご飯あんまり食べないね」

「そうだね。だって」

「お腹いっぱいになっちゃうと、お酒が美味しくなくなっちゃうもんね」

先回りした私の言葉に、奏は可笑しそうに笑った。