【夢の島ランド】
 
 
この本を手にした人は(さいわ)いである。


よく末期(まっき)(がん)患者(かんじゃ)に告知するのが良いのか、
告知しないのが良いのかと言う議論がある。


あなたは告知を望まないのだとすれば、
そっとこの本を閉じて欲しい。

告知を望むのなら、心して先を読んで頂きたい。


私はいずれにせよ、
選択肢がある事が大事だと信じこの書を残す。



西暦2080年、医療の発達により世界は、
超高齢者社会を(むか)えていた。


それと同時に福祉も画期的な飛躍(ひやく)(むか)え、
日本の平均寿命は130歳となり、
その記録は毎年更新されている。


とは言えこれを書いている私はと言えば、
まだ100歳にも満たない若造であるが。


超高齢者社会となった日本ではある法律が制定され、
これにより福祉は大きく変貌(へんぼう)していた。


老人ホーム夢の島ランド。


数千人を収用出来る日本一のこの老人ホームには、
睡眠カプセルポッドが並び、
数多(あまた)の老人がその中で眠りについていた。


ここに入った老人達は、残された余生を、
幸せな夢の中で暮らすことになる。


機械に繋がれ冬眠カプセルの中で眠らされた老人達は、
機械が作り出した架空の世界(バーチャルリアリティ)で、
残りの余生(よせい)を暮らすことになる。


若かりし頃の自分に戻り、
その世界を本物だと疑わず生活している。


時は今から60年前の日本。


2020年。

東京オリンピックを来年に(ひか)える年である。


運営が始まったばかりこのシステムでは、当初、
サーバーのデーター負荷により誤作動が生じ、
人の行動を抑制(よくせい)するため自宅待機という名目で、
人の行動を(おさ)え、メンテナンスしていたが、
それも大方なおり軌道にのりはじめている。


コロナと言う未知のウイルスによる、
自粛要請(じしゅくようせい)と言う形をとることで、
誰も、ここが架空(バーチャル)世界だとは気がつかず、
サーバーの負荷(ふか)(おさ)える事に成功した。


そう気づかれた方もいらっしゃると思うが、
2020年、あなたが住むこの世界をこそが、
架空(バーチャル)世界なのである。


私は夢の島ランドの職員であるがこの法案に反対し、
どうにかこの事実を人々に警鐘(けいしょう)すべく、
気がつかれないよう(ひそ)かに、
メインコンピューターのプログラムに
ウイルスを仕込んだのだ。


架空世界(バーチャルリアリティ)で出版されている書籍の1つとして、
真実を書き残したのである。


バーチャル世界の書籍は数万冊に及び、
その全てをチェックするのは、
事実上(じじつじょう)不可能であると同時に、
他にもより人気の高い娯楽(アニメなど)多数あり、
比較的(ひかくてき)人気のない書籍(しょせき)の中に、
私は真実を残す事にした。



(なお)この真実を知ったあなたがどうするかは、
あなた自身に任せる事とする。





        名もなき夢の島ランド職員より