「...もしもし?」

《ねぇ、いつ帰ってくるの?
もう深夜だし、終電ないけど》

「仕事が終わりそうにないから、明日帰るよ」

《明日って、明日の夜?》

「うん。だめ?」

《だめに決まってる。》

「そう。じゃあまた明日ね」


そう言って電話を切る。
...まぁ仕事なんて嘘で、ネカフェにいるのだが。

私たちはそこそこな街中に住んでいて、近くにネカフェがある。

歩いて五分圏内。

スマホを変え、彼はまだGPSをつけていない。
というか...仕事用のものしか持ってきていないため、GPSはあっても反応しない。

仕事用のものはいつ変えるかわからないためだった。


くぁ、とあくびが漏れる。
そろそろ寝ようか、なんて考えていた。

...やっぱり帰ろ。
明日家に帰って泣かれても嫌だし。

面倒事は先に終わらせておく主義だ。




「ただいま」

「......」


布団に寝る陸斗の頬には、かすかに涙の跡があり、固まっていた。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せながら眠っている。

可愛い、なんて思ってしまう私は病気である。


仕事着からパジャマに着替えて、布団に入る。
ぎゅっと陸斗を抱きしめると、彼は私の胸に顔を埋めた。


「か、えで...」


そう寝言を呟いて、表情が和らいでいく。
可愛いなぁ、と思いながら、私も目を瞑った。





「楓!」


その声で起きる。
外は明るくなっていて、午前10時だ。

今日は休みである。焦る必要も何も無い。


「いつの間に帰ってきてたの...!?」

「3時過ぎくらい」

「僕が電話してすぐ...?」

「うん、そうだよ」


そういうと抱きついてきて、うぅ、と嗚咽を漏らす。
可愛いなぁ、なんて思いながら頭を撫でた。


「ばかぁっ...!!!
もう嫌い!」


そっぽを向く陸斗に、私は容赦なく言った。


「じゃあ別れる?」