「今日も遅いじゃん」


ソファーに体育座りをして頬を膨らませる。
時刻は午後10時。

しかし彼は、私の仕事が季節関係なく忙しくなりやすいと知っている。

だから、無理に、やめろとは言わない。
やめてほしい、と言うだけ。


「...それに、また男の人といたでしょ。
このタバコの匂い、嫌だ」

「ごめんね、すぐ着替えるから」

「だめ、ぎゅーってして僕の匂いつけるの」


彼は独占欲が人一倍強い。
一緒に出かけたとき、店員さんと話すだけでも怒られた記憶がある。


「私は陸斗だけだよ」

「...僕も、楓だけだよ」

「でも疑うってことは、そういうことだよね」

「疑ってなんかない...やだ、離れないで、楓」

「ごめん、先にお風呂入るね」


来ていたジャンバーを脱いで、ソファーに投げ捨てる。
部屋のタンスから服を取り出すと、私は脱衣所へ向かった。


「......はぁ」


冷水で体が冷える。
しかし私は、温水にしようとは思わない。
頭も、体も、冷やしたい気分なのだ。


「っ、楓」


お風呂から上がって服を着て、ある程度水気を取ろうと、髪をバスタオルで絞りながらソファーに座る。

離れたところで体育座りをしていた陸斗が、私の膝の上に乗った。


「...絶対別れたくないよ...」

「私も、陸斗と別れるつもりは無いよ」

「ほんとに?ずっと、僕と一緒にいてくれる?」

「何があっても離さないもん」


ぎゅっと陸斗を抱きしめる。
成人男性が膝の上に乗るのは相当重いが、比較的縦に長く横は細い陸斗なら大丈夫だ。


「すき、だいすき。
楓のこと愛してる」

髪乾かしてあげる、とドライヤーを取りに、彼は洗面所へ行った。