心がぎゅっと掴まれたようで、その……とにかく、形容できない気持ち。

それに、交換条件も……。

「瑠璃は……親父の周囲の人間に接触して情報を引き出せ」

「りょーかい!」

両手でグーサインを差し出しウインクまで飛ばした瑠璃さんに橘くんと2人で冷たい視線を送った。

だが瑠璃さんはそれに気づいていない様子で、そのままのテンションを維持して聞いてくる。

「琥珀は何するの?」

「俺は、後で報告する」

「はあ!?」

瑠璃さんと私の、高さのほぼ同じ声がハーモニーとなる。

「まあ、琥珀がいいならそれでもいいけど……」

ちらりと横目で私を確認してきたので、私も発言した。

「まあ、私も、いいですけど」

橘くんは私の答えからひと呼吸おいて総括に入った。

「俺は早速仕事があるから抜ける。俺はコイツみたいに聞き耳たてるなんて低俗な真似はしねぇから安心しろ」

瑠璃さんに対しての捨て台詞を吐いて、そのまま部屋を出ていった。

「……瑠璃さんは」

自分でも驚くぐらい雨音に似た静かな声だ。

「知っていましたか?」

瑠璃さんは小さく苦笑して、私の声と同じように静かな声を出した。

「……写真のところまでは。日記については何も知らなかったよ」

「じゃあ、お二人の暴きたいという、お父様の悪行は何ですか」

これがわからないことには調査のしようがないのだ。

闇雲に走り回り、無駄に体力を消費するだけである。

「……それは……っ」

丸い瞳の潤みが水晶体を滑った。

「琥珀が言うまで……僕からは言えない」

伏せた瞼が僅かに痙攣していることから、瑠璃さんが心を痛めているのだと悟る。

そしてもう1つ、明らかとなった。

「じゃあ、橘くんが何かしら関わっているんですね?」

「えっ……」 

「重要なのは被害者なのか、共犯なのか、ということなんですが……そこだけでも、教えてもらえません?」

私が問い詰めると、瑠璃さんはいやいやいや、と両手を顔の前に出し左右にふった。 

私は何か気に障るような発言をしただろうか。

「どうして琥珀が関わっていると思うんだい?」

何を言い出すかと思えば、そんな簡単なことか、と若干呆れる。

「お二人共、お父様の何かしらの罪を暴きたい、という意志は一致していますよね、程度が違うにしても」
 
瑠璃さんが頷く度にさらりと黒髪が揺れた。

この黒髪はお父様譲りなのかわからないが、もしそうなら見てみたい、などと関係ないことを思う。