「けっ、たく?」

まるで言葉を知らない赤子のようにフワフワしたイントネーションで瑠璃さんの言葉を反復した。

それに、一人称が『俺』になってることもきがかりだ。

「うん、そう。僕も加担する。いいよな、琥珀」

橘くんは床の1点を睨むようにして、ぶっきらぼうに返答した。

「勝手にしろ」

「琥珀もいいみたいだから、あと天藍ちゃんだけなんだけど、どう?」

橘くんのあの答えはYESで正解だったのか、と突っ込みたいところを堪え、自分自身の問題を考える。

「いいですけど、わた」

「ありがと〜!じゃ、早速計画、練ろっか!」

私の交換条件には口出ししないでくたさい、と言おうとしたのに、やっぱり話を最後まで聞かない。

よくここまで生きてこられたな、とある意味感心する。

そして、まだ続く頭痛になんとか耐えながら、それを解消した瑠璃さんの笑顔を恨めしく思った。

「……で?」

沈黙が走り抜ける。

「え?」

何かを尋ねたようだけど、目を細めて口角を上げてニコニコしている瑠璃さんからは何が言いたいのか読み取ることはできなかった。

「え、だから、これから何するの」

……確かに。

お笑い芸人のコンビか、というくらい息ピッタリで瑠璃さんと橘くんを振り返る。

「……」

橘くんは形のいい右の眉毛をぴくりと上げると、ゆっくりと口を開いた。

「お前は、」

「どっち?」

悪戯な響きを含んだ瑠璃さんの声に、橘くんは一度舌打ちし、はじめから言い直した。

……瑠璃さんって結構意地悪。

初期のころは妖精みたいな不思議でフワフワした優しい人、というニュアンスであった。

しかし、月日が経つと段々と子供だな、と呆れることもあれば、突然年を飛び越えるように大人びた行動をしたり、最近だと凄く人をからかうようになった。

染まりやすい性格なのか、あるいはもともと多くの性質を持っているのか。

いずれにしても、橘くんと勝るとも劣らない変わり者だと思う。
 
「如月は、この写真と近い年齢のもの、できればこの写真と同じものを入手しろ。もし、この写真と全く同じものが見つかれば、身の回りの人にどういう経緯で撮ったか、人に与えたかなどを聞け」

「りょ、了解」

テキパキとした指示にタジタジしながら返事をした。

どうやら学級委員長の名は伊達ではないらしい。

正直なところ……この調査に協力するのに少し、乗り気なのだ。

脅したことはともかくとして、橘くんに、なんと表現すればいいかわからないくらいの、不思議な懐かしさを覚えた。

それが、私を引きつけて、離さなかった。