声が小さくなったのに加え、雨脚が強まってきて2人の会話が遮られる。
「……う……だ」
「ま……る」
もどかしくて遂に体を襖に預け、耳に全神経を集中させる。
今更ながら自分の置かれている立場を理解し、不謹慎だがスパイみたいでワクワクした。
僕、国家機密に関わるスパイになるのもいいかもしれない、なんて関係ないことで笑みを零す。
「……か……の!?」
「……い!」
語気が荒れ始めた。
口論しているのだろうか。
「わっ!」
襖が突然開き、そこに体重を預けていた僕は部屋へ倒れ込んだ。
「おいコラ、何の真似だ?」
琥珀は片目を細め、頬をぴくぴくと痙攣させており、ご立腹のようだ。
天藍ちゃんは長い前髪を左右に揺らし、やれやれとでもいうような呆れの感じるため息をついた。
もしかして。
「ずっとバレてた?」
「んなわけねーだろ。襖が軋む音で気づいたんだ、こいつがな」
親指で天藍ちゃんを指し、それに連動するかのように天藍ちゃんはそっぽを向いた。
艶めく黒髪の隙間から顔を見せた耳はほんのり赤くなっている。
そんな反応をしていると、少しいじめたくなってしまう。
「照れてるの?天藍ちゃん?かっわいー」
「はあ、セクハラで訴えますよ」
その声も何だか張りがなくて、トゲトゲしい言葉とは裏腹に完全に照れているのが読み取れた。
琥珀との仲を修復したととっていいのだろうか。
「お前、ヘラヘラしてんじゃねぇーよ。目的はなんだ?」
両頬をガッチリ掴まれて、物凄い形相をした琥珀と無理やり目線を合わされた。
蛍光灯の機械的な光が琥珀の湿っている髪をさらに濡らし、雫を溢れさせた。
ここで変な理由を並べれば、接触を断たれるに違いない。
何か、高校生らしくて、無難な理由はないものか。
「……二人きりにしたかったんだよ」
「はあ?」
「だって琥珀、天藍ちゃんのこと好きでしょ。それに、天藍ちゃんだって、琥珀のこと好きでしょ?見てたらわかるよ」
……完璧。